Kitchen LAB&BAR/キッチンが俺の研究所であり、バルである

~料理に少しのサイエンスを、キッチンにクリエイティブを、そして嫁に褒められるメシを作りたい〜

寿司屋で最初に食べるべきネタはコハダだと決めた

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女性大将が最初に頼んで欲しいと言う寿司ネタ『コハダ』

家の近所に安くて旨い、だけど予約専門の寿司屋を見つけたので、予約して妻と意気揚々と店に。ほんま、久しぶりに回らない寿司屋に行きました。


10席ほどの木のカウンター席があって、寿司屋では珍しい女性大将とアルバイトらしき若い女の子が1人の小さいお店でした。人気の店と聞いてただけあって、空席はなかったですね。席の時間も1時間半程度と決まってましたからね。


僕は、寿司屋の作法なんてよく分からないので、まず大将にオススメを聞いて注文するようにしています。ここの大将は、光物が苦手でなければ、「コハダ」が良いですねっていう。

コハダ(小鰭)っていうはいわゆる出世魚。成長過程で呼び名が変わる魚ですね。5〜6cmくらいでシンノコ(新子)、8cm〜9cmがコハダ(小鰭)、10〜11cmでナカズミ(中鰶)、12cmを超えると、コノシロ(鰶)(このしろ)とっていう風に成長していく出世魚。


普段、回る寿司ユーザーな僕は、やっぱりマグロや、タイ、エビなんかのメジャーどころから手を付けて、あまりコハダって手に取ったことないですね。そもそも光物じたい柿の葉寿司(鯖寿司)ぐらいでしか食べた記憶がないです。


カウンターのお店では、大将がおしゃべりな人かどうか確認しながら、プロの料理人のうんちくを聞くのが好きなんです。どうして、コハダがオススメなのか聞いてみると、コハダは寿司にして初めて美味しくなる魚だからだそう。特に江戸前鮨の技術が盛り込まれているそうです。


そもそもコハダは、寿司以外で食べる機会がほとんどないとのこと。コハダがさらに成長したコノシロは、「煮ても焼いても食えない魚」と蔑まれていた時代もあったぐらいに旨味がないらしい。コノシロが捕れても漁師は捨ててしまうぐらいで、滅多にスーパーにも流れてこない。


興味深いことにね、この魚は、小さければ小さいほど旨味があるらしい。本当の旬は、お盆から9月末ぐらいで、まだシンノコの状態がいいらしいんです。


でも、旬の時期に静岡の舞阪や愛知の柳橋魚市場、福岡の行橋、佐賀の有明とか、名のある漁業に行ってもコハダは買えないことが多いらしいです。


大将はケラケラと言ってましたけど、コハダやシンノコは築地でバカほど高く売れるのだそう。

幼魚は比較的に簡単に捕れてしまうから、漁師は5月ごろの生まれたての幼魚を早捕りして、二足三文で大量に悪徳業者に売ってしまう。悪徳業者がそれを築地で何百倍の値段で売りだす。

それを知ってか知らないか、客が買うから寿司屋が買う。高級寿司屋は見た目も派手な十何匹付けにして〆て、一貫一万円とかで出す。

女大将は、そんな話を聞いたら、旨そうには思わないですよね、って。そして、僕が前のめりで話を聞いてたら、本物のコハダの握りってのを教えます、って、いたずらな感じに笑ってました。


美味しいコハダの握りは、一貫で一匹か二匹付け。身のパワーや味の濃さ、旨味、脂の質とかトータルで判断するとそのくらいのサイズになるそうです。小さければよいというわけではなく、少し脂がのった今ぐらい。


今の時期のコハダとナカズミの間ごろ、丸々と太ろうとしていて、頭から尻尾まで脂が細かくさしていて美味しいんだって。

でも、コノシロぐらいまで大きくなってしまうと、旨味に繊細さが失われてしまって、骨っぽくなるようです。安い寿司屋では、行き遅れたナカズミやコノシロをコハダだって出すとこもあるから要注意。


今日はたまたま瀬戸内海の良いサイズのコハダが仕入れることができたから、オススメです、だって。

コハダは一般的には春ごろ、一斉に産卵して卵が孵化して初夏には幼魚が出回ります。

しかし、女大将も言ってたんですけど、最近では生態系も変わってきて、秋や冬にもシンノコやもいるそうです。今は他の魚もよう捕れるから、悪徳業者も少なくなって、同じ身質のコハダも安く買えるらしいです。(それが美味しいかというと、また別の話なんですけどね。)

ね、これはどんな文献や資料にも載っていない生の事実。


漁場で言えば、北は仙台の松島湾から、静岡、愛知、瀬戸内海と南下して、南は天草まで。日本海側は若狭と能登の一部位ですね。とりわけ川が流れ込んでいる湾は山の養分が豊富で、黒海苔や海藻類が育つそうです。

有明とかの良いコハダはその土地の黒海苔を食って育っているので、身を開いたら黒海苔の香りがするらしいですね。目利きとしては縦幅に対して横幅が広くてずんぐりした姿形で、コハダは鱗の剥がれ方が激しいから背中に鱗が残っていて、エラが赤いものが鮮度がいい。


流行りとか希少価値に頼るのではなく、料理人がきちんと五感で魚を見て判断しなきゃダメだってことなんだろうなぁ。寿司屋の知識量とそれを知った上での目利き力にはやっぱり感服するばかりですね。

コハダに寿司屋のクリエイティブな部分を感じた

ほんで、コハダは寿司にすることで美味しくなる、って言ってましたけど、その分さらに下ごしらえが難しいんですって。


身質によっていろんな〆方があって、その時々、たまには大将の気分によっていろんなアプローチで出すそうです。

このお店の基本は6種類。基本で6種もあるんか。。。


小さめのシンノコは米酢か白板昆布〆。少し大きくなって味が濃くなってきたら赤酢や柚子酢使い始めて、より身にパワーがでてきたらサトウキビで作る「きび酢」やスペインのとある島だけで造られているジンで仕込んだ「ジン酢」で〆ることもあるそうです。



それを客の口に入るときの美味しさをてっぺんになるように逆算して、仕込む。18時予約の人もいれば、19時スタートの人もいるから、全部別々に。料理人の都合じゃなくて、お客様の都合に合わせて。

ちょっと話を聞いただけで、ほんまクリエティブな仕事、って分かりますね。立ち振る舞いとか、姿勢も良いし、やっぱり憧れの仕事ですね。


めっちゃこだわりがあるんですね、って浅はかにも言ってしまったんですが、『こだわりというか当たり前のことですよ』って、恐れ入ります。。


他の光物、例えば、サバとかイワシなら味が前に出て主張する。それに比べてコハダには強い味の主張がない。料理人が仕事をして塩や酢によって旨味が際立たせます。


コハダは塩と酢の絶妙なええ塩梅を楽しむ魚なんですね。ほんで、酢飯のふくよかな甘みと非常に相性がいい。仕込み方といい、職人の仕事によってあれほど独特の旨味を引き出すことができる魚は他にないんですよね。


料理人にとっては、そこが何よりの魅力で、腕の見せ所。コハダを食べればその店の技量が分かるってのも、そんな理由なんですね。


そんな話を聞いてしまったら、ヒョイっとつまんで一口では食べれませんね。これは寿司職人の創造性が集約された一つのアートだね。


今日はどんな風に仕込んだのだろうか?妄想しながら食べるのも乙なもんですか。まぁ当たりっこないんだろうけどね。


言葉だけで味を伝えるのは難しいけど、確かに臭みはないし、噛んで溢れる脂も甘い。美味しい。。

次に回らない寿司に行く時も、最初はコハダからを試してみよう。その前にもっと稼がなきゃならないお財布事情だけども。